山降りて小さな滝に憩ひけり   井上 庄一郎

山降りて小さな滝に憩ひけり   井上 庄一郎 『この一句』  妙な技巧などとは全く縁の無い、実に平明な句である。平明過ぎて、日記の一行を切り取ってきただけのような、素っ気なささえ感じる。こういう大人しい句は、たくさんの句がひしめく句会では見過ごされがちである。果たして、この句もそうであった。  しかし、じっくり味わうにつれ、この句はだんだんその良さが湧いて来る。すっと読んだだけではとてもこの味は感得できない。  「小さな滝」は登山口にあるのだろう。登る時にも目に入る。その時は「かわいらしい滝だな」くらいは感じるかも知れないが、それ以上の思いは無い。だが、「山降りて」ほっとした時の、この小さな滝の与えてくれる爽やかさ、安堵感はさぞかしのものであろう。読んでいるうちに、私も一緒に登って降りて、滝のほとりに憩うているような気分になるのだった。  土用のさなか、夏座敷に独り煎茶を飲んでいる。そんな感じの句である。(水)

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