若き継母父を奪ひし梅雨の入り   藤野 十三妹

若き継母(はは)父を奪ひし梅雨の入り   藤野 十三妹 『この一句』  恐らく自分のことではないだろう。近くにそういう事例があったわけでもなさそうだ。これは、作者の頭蓋骨の内部に生まれた物語世界の一場面に違いないと思う。なにしろこの作者は稀代の物語作家である。  時には吸血鬼ドラキュラの出没するトランシルヴァニアの廃城に身を置き、ある時は倫敦塔の斬首台にバラを捧げ、またある時は平安の昔の羅生門あたりを陰陽師と行く。洋の東西おかまいなくおどろおどろしい話を耳にすればすぐさま探索に赴き、また新たな物語を紡ぐ。  というわけだから、句会でこの句の作者が明らかにされた時、またやられたかと苦笑した。実は初めてこの句を見た瞬間、多感な少女時代の辛い思い出を詠んだのか、それにしてもずいぶん大胆に心中を吐露したものだ、と胸を衝かれる思いをした。ところがさにあらず。欠席投句の作者は、句友たちの深刻になっている表情をひとり自宅で思い浮かべ、呵々大笑しているに相違ないと思い至ったのである。とにかくこういう遊び心も捨て難い。(水)

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