明早し妻に淹れし茶冷え置かる   深瀬 久敬

明早し妻に淹れし茶冷え置かる   深瀬 久敬 『季のことば』  「明早し」は「短夜(みじかよ)」の言い換え季語で、他に「明易し」「明急ぐ」「夜のつまる」という言い方もある。夏は夜明けが早く夜が短くなる。夜明けから日没までを「昼」、日没から日の出までを「夜」としてそれぞれを六等分して時刻を定めていた明治五年までは、冬の夜と夏の夜とでは長さが大きく異なった。冬至の夜は13時間もあるが、夏至の夜はわずか8時間10分しかない。恋しいひととの逢瀬もすぐに別れの朝が来てしまう。職人や農民にとって夏場は大変で、睡眠時間が短くなり、労働時間が冬場の5割増しくらいになってしまう。「昼寝」が夏の季語になるくらい一般化したのもむべなるかなである。  この句、情景がいろいろに取れる。この妻は病床にあるのだろうか、あるいは朝早くから活発に家事に取り組んでいる元気な奥さんか。とにかく亭主はひまである。愛妻に新茶を淹れたのだ。しかし、それは飲まれずに置かれたままで冷めてしまい、いつの間にかあたりがすっかり明るくなってきたというのである。夏の早暁から早朝の年寄二人だけの静かな時間経過を、茶の冷める様子で上手に述べている。(水)

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