冷奴親父の声を背に受けて       野田 冷峰

冷奴親父の声を背に受けて       野田 冷峰 『この一句』  一読、はてな? と思ったが、すぐ自分なりに状況を判断した。親父は亡き父なのだろう。背中から声が聞こえたというのは、後ろに仏壇があったからか。父親は豆腐が好物だった。冬なら湯豆腐、この時期になればもちろん冷奴だった。「お前も好きになったな」という声が聞こえたのである。  この句会、兼題の冷奴には「家庭もの」の句がかなり出てきた。妻とのこと、これからの夫婦のこと、離婚した子供のことなどなど。この句も同じグループと見ていいのだが、選んだ人は案外、少なかった。生きているお父さん、と考えてしまって、状況が浮かびにくかったのかも知れない。  分かりやすい表現にしたらどうだったか。「亡夫」を「ちち」と読ませる表記はあまり感心しないが、「亡き父」などもあり得た。しかし作者は「親父」としたかったのだろう。「好物は肉料理ばかりだったのに、ようやく冷奴か」。そういう親父の声を聞きたかったのだ、と私は思っている。(恂)

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