野良猫の仔猫咥へる塀の上        徳永 正裕

野良猫の仔猫咥へる塀の上        徳永 正裕 『この一句』  かつて東京の町中にも野良猫がたくさんいた。家の床下などに栖(すみか)を作り、何匹も産んで家の人を困らせた。仔猫一匹くらいなら家で飼うこともあるが、多くは処置に困って捨ててしまう。野原に置いてきたり、川に流したりした。親が捨てに行くのを、子供たちが泣いて見送ることもあった。  仔猫がいなくなると、母猫は半狂乱になり、あちこち走りまわる。この句は、自分で外に出て迷ってしまった仔猫を、母猫が連れ戻す場面かもしれない。しかし私は人間が捨てた仔猫と親猫だと想像してしまう。昭和の二、三十年代に毎年、このような“猫の悲劇”を見ていたからだろう。  ともかくこの場面は、母猫が仔猫を探し当てて戻ったところである。人間の親や子供たちが塀の上の親子猫を見上げている。親猫は怯えているに違いない。しかし人間の子供には毅然たる態度に見えた。「飼っちゃだめ?」と子供が母親に聞く。母親は泣きそうな表情で猫の親子を見つめている。(恂)

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