消しゴムの転がり消ゆる春の闇       大熊 万歩

消しゴムの転がり消ゆる春の闇       大熊 万歩 『この一句』  転がった消しゴムはどうしてあんなに簡単に行方不明になってしまうのか。長四角で、弾力があって、角が丸くなったりしているので、不規則に跳ねて行くからかも知れない。見つからなければ思考が中断する。いらいらしながら消しゴム付きの鉛筆を探し出し、誤字を直したことが何度もあった。  友人から「消えるゲルインキ」のボールペンを頂戴した。試してみたらよく消える。これは便利だ、と喜んだが、実際に使うことはほとんどないことに気づいた。今では原稿はすべてパソコン書きになっていて、簡単なメモ以外に手書きで字を書く機会はほとんど無くなっていたのだ。  この句を見ているうちに、ふと思いが浮かんだ。失せた消しゴムは一体、どこへ転がって行ったのだろう。見つけて拾い上げた記憶はないし、アレを使い切ったことはあり得ない。もしかしたら消しゴムがまだあるのかも知れない、と机の下を覗いて見たが、春の闇が広がるばかりであった。(恂)

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