戦なき地球の夢や蜃気楼          高石 昌魚

戦なき地球の夢や蜃気楼          高石 昌魚 『この一句』  作者の昌魚氏が「日経俳句会報」に書いた随筆の中に「特攻チョコレート」という、旧制高校時代のエピソードがある。終戦後間もなくのこと、寮に配給されたチョコレートを食べ、学生たちがおかしくなった、というのだ。みんなが大騒ぎし、スポーツ選手は根限りの練習を続け、一晩中眠らぬ者が続出した。  学生らが食べたのは、軍が特攻隊用に作った覚せい剤入りのチョコであった。特攻隊員は覚せい剤の力を借りて、敵艦に突入していったのだ。私はそんな話を半信半疑で聞いたことがあったが、もはや疑う余地はない。有為の青年たちの命を、こんな手法で奪った国の罪の深さを、改めて思うばかりだ。  「蜃気楼」は春の季語である。この時期、蜃気楼は海などに現われるが、すぐ消えてしまう。戦なき地球の夢は、蜃気楼のように消えていくばかりなのか。いや、そうではない。蜃気楼は現実に存在するものが、映像となって現れてくるもの。作者ももちろん、夢の実現を信じておられるのだろう。(恂)

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