目刺焼く遠き昭和の夕支度   久保田 操

目刺焼く遠き昭和の夕支度   久保田 操 『この一句』  「目刺は路地裏なんかで七輪で焼いて食べるという情景がぴったりする。これは昭和前半生まれの人でないと分からないかもしれないが」(涸魚)、「昭和の夕支度というのが気にいった。『平成の夕支度』ではだめだろう。平成でも大正でもない遠き昭和がいい」(冷峰)。こんな評が次々に出て句会酔吟会は大いに盛り上がった。  この句が導火線になって時代論に発展した。「降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男」が引き合いに出され、「それにしても昭和は『遠き』なんですかね」「つい昨日のことのように思えるが」「そりゃ遠くなってますよ。昭和が終わってもう四半世紀以上たつんですから」。確かにそうだ。草田男の「明治は遠く・・」が載った句集が出たのは昭和11年だから、この句は昭和11年以前に詠まれたものだ。明治が終わって20年ちょっとの時期である。  今や目刺は洒落たキッチンの煙の出ない魚焼器で焼かれている。七輪で団扇バタバタの昭和時代はもうセピア色に霞みかかっている。(水)

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