冴え返る月しらじらと諏訪の湖   河村 有弘

冴え返る月しらじらと諏訪の湖   河村 有弘 『この一句』  諏訪の生まれ育ちだが大学以降はずっと東京とヨーロッパ各地を経巡っていた句友が、「まさにこの通りなんですよ、あそこの早春の月夜の情景を思い出させてくれました」と評した。私は冴え返る時節の諏訪は知らないが、十二月に行ったことがある。冴ゆる夜に身も心も縮こまってしまう感じであった。  この句の作者は江戸っ子だから、これもやはり旅吟の一句。二月か三月初め頃、諏訪を訪れた夜、湖畔の宿にくつろいで窓越しに湖に映る月を眺めての感懐であろう。  ただ、「冴え返る」という季語を冒頭に置いて、「月しらじらと諏訪の湖」というのでは、どさ回りの芝居の書き割りの絵を見せられたような感じがして、いかにもありきたりな情景描写だと「ボツ」の籠に放り込んでしまいたくなる。しかし、なんとなく気持にひっかかるところがあって、もう一度読み返すと、なるほどなあと思えて来る。写生句の良さというのはこんなところにあるのかも知れない。(水)

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