擦り寄って思わせ振りの猫の恋      渡辺 信

擦り寄って思わせ振りの猫の恋      渡辺 信 『この一句』  世の中、猫ブームだというが、恋猫のわめき声を聞く機会はめっきり減った。猫は家の中で飼われるようになったのである。しかも一人住まいの女性が、マンションで猫一匹と暮らすようなケースが多くなり、俳句の有力な季語である「猫の恋」も、存在感が次第に薄れて行く情勢だ。  一方、人と猫との付き合いが密接になり、家族同士のような関係が出来上がっていく。朝、ご主人が勤めに出て行くと、猫は部屋に閉じ込められながら、ひたすら時間の経つのを待つことになる。カギがガチャリと鳴れば猫は大喜びだ。飼い主は猫を抱きあげ、恋人との再会のように嬉しがる。  恋の季節の猫は主人の脚などにすり寄ってきて、確かに「思わせ振り」でもある。ところが時期がくると、あっさりと平常に戻ってしまう。「うらやましおもひ切る時猫の恋」(越智越人)。芭蕉の弟子の越人は「恋心のすぐ冷める猫がうらやましい」と詠んだ。現代にも同じ思いの人がいるに違いない。(恂)

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