朱を入れるこけしの口や深雪晴      岡本 祟

朱を入れるこけしの口や深雪晴      岡本 祟 『この一句』  わが家の居間の飾り棚に古いこけしが一本置かれている。何十年も前、東北を旅行した時に買い求めたもので、茶色く古びてしまったが、買ってきた頃の地肌はまるで雪のように白かった。その中に赤い色が目立っていた。胴には真っ赤な花が描かれ、髪飾りだろうか、頭部にも赤い色があった。  最も印象的なのが口であった。わが家にあるものは実に小さな赤がぽつんと描かれている。棚に初めて置いた時は、単なる一点と思っていた。ところが目を凝らすと、確かに唇の形になっていた。「朱を入れるこけしの口や…」。木地師が息を詰め、全神経を集中して、口のあたりに朱を置いたのだろう。  句の「深雪晴」は明らかにこけしの唇に対応している。北国の雪晴れの中に純白の木肌があり、さらにその中に一点の朱がある、というのだ。あまりにも出来過ぎているので、作者の頭の中で描かれた情景…かな、とも思う。しかし例えそうであっても、白と朱の鮮やかさが失われることはない。(恂)

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