おのれ恃む香りを秘めて凍てし菊      吉野光久

おのれ恃む香りを秘めて凍てし菊      吉野光久  「恃む」は読みも意味も「頼む」と同じで、「憑む」とも書く。「おい、頼んだよ」などと肩を叩いたりするが、改めて調べてみたら、気軽に使ってはいけないような言葉だった。広辞苑の第一義に「手を合わせて祈る意からか、自分を相手にゆだねて願う意」とある。「相手にすがる」という意味もあるという。  「おのれを恃む」。自分しか恃むものがない、ということである。高齢者の一人として、全くその通り、と頷かざるをえない。かつては親や会社の上司、頼りになる同僚もいた。しかしそういう人とは次第に縁が遠くなっていく。社内検診がなくなり、自分の体は自分の責任で管理することになる。  句の「凍てし菊」は「寒菊」とは違うようだ。歳時記によれば、「枯菊」の傍題にある「凍菊(いてぎく)」のことだろう。同じ傍題に「枯残る菊」もある。枯れて、凍てて、なお花を残す菊に顔を寄せれば、香りを放っているのだ。「おのれを恃む香り」と表現したセンスに感心し、粛然となった。(恂)

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