冬空に時の鐘ある小江戸かな     嵐田 啓明

冬空に時の鐘ある小江戸かな     嵐田 啓明 『この一句』  「小江戸」と呼ばれる東京・川越の七福神詣吟行の一句。観光客でにぎわう街の一角に「時の鐘」がある。高さは十六メートルほど。一行が訪れたのは快晴の日で、真っ青な冬空の中に江戸時代の雰囲気を留める鐘楼があった。その下に並んで恒例の写真撮影。早速一句となるのだが、そこからが難しい。  誰もが同じ時の鐘を見ている。そのままを詠んでも芸がない。人と違うところを見つけなければ、ときょろきょろ見回しても、川越なら古い町並みは当たり前だ。雲の様子は、と見上げたら、少しは浮いていたけれど、特に句にするほどのことはない。どう作っても平凡だから、とやめることにする。  吟行の結果は「メール句会」で、と決まり、送られてきた上記の句を見てびっくりした。全く見たままではないか。しかしいい句である。あの時の風景がありありと浮かんでくる。作者は鐘楼を見上げた瞬間に、この句が浮かんだのだろう。選句の結果を伝えるメールの中に「名人の句」という評があった。(恂)

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