煮直して飴色深き大根かな   今泉 恂之介

煮直して飴色深き大根かな   今泉 恂之介 『この一句』  大根は野菜の王様ではないか。大根おろし、なます、サラダ、浅漬けと生で食べるのも良し、煮て良し、はたまた保存食としての切干し大根も旨みが凝縮して実に旨い。着色してない上質の沢庵漬はことのほか冷酒に合う。おでんや粕汁も大根無しには出来ないし、大根のつまが無くては上等の刺身も台無しだ。  煮大根にもいろいろある。地方色があり、家庭ごとに異なる味付けがある。あっさりと茹で上げて柚子味噌などで食べる風呂吹き大根も、大根本来の旨みが味わえて真に結構だが、この句の煮大根のように飴色になるまで煮込んだ柔らかいのも滋味が深い。ことに冬場はこの煮大根がいい。一日目はあっさり炊いた風呂吹きのようなもの、二日目になるとすっかり味が染み込んでいる。そして三日目は、もう飴色がかって、柔らかくて、歯応えという点では頼りないが、完全に馴染んだお袋の味である。  このように、生でも、あっさり煮ても、ぐんと煮込んでも、干したのを戻しても、漬けても美味い野菜はあまり無い。応用範囲が極めて広いのは、「オレが俺が」と自己主張しないからであろう。しかし、どんな味付けをしようとも、やはり大根は大根らしさを保っている。そこがまた面白い。(水)

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