着疲れて父の背温し七五三   水口 弥生

着疲れて父の背温し七五三    水口 弥生 『この一句』  「気疲れ」という言葉はあるが、「着疲れ」という成語は辞書に載っていない。しかし、この句を読むと、この「着疲れ」という言葉が実によく分かる。俳句は窮屈な詩形だから、造語がしばしば用いられるのだが、これなど無理なく読者の頭に入る言葉と言えよう。  三歳の女の子であろう。着慣れない振袖を着せられて、緊張しながらも大喜びで神社にお参りし、記念撮影に納まり、ばたばた駆け回ったはいいが、やがてどっと疲れが出て、お父さんに負ぶさった途端にたわいなく眠り込んだ。  お父さんも三十代半ば、溌剌としている。愛娘の成長を祈り、この子を守るためには何だってやってやるぞといった意気込みで、しっかりと背負っている。娘は安心しきって父親の分厚い背中にコバンザメのように張り付いている。それに寄り添うお母さんも満ち足りた表情である。  平穏無事、いかにも幸せな若い家族の七五三風景が「着疲れて」という用語と「父の背温し」という叙述によって遺憾なく表されている。(水)

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