急カーブ鏡に映る甲斐の秋   植村 博明

急カーブ鏡に映る甲斐の秋   植村 博明 『この一句』  東京からちょっとしたドライブで紅葉を楽しめる場所はたくさんあるけれど、まず指折るのは山梨県であろう。中央道、東名道と二本の高速道路で東京と結ばれているのが強みである。昇仙峡、富士五湖周辺、篭坂峠と晩秋の甲斐はまさに「錦繍の国」となる。  車のバックミラーは額縁の役割も果たす。素晴らしい景色は真っ正面からでももちろん美しいのだが、バックミラーという額縁におさまった後側の光景は、時に美しさが際立つように見える。九十九折りの坂道を曲がるたびに目まぐるしくアングルが変化し、正対して眺める景色とは全然違った感じを受けるのだ。正対している風景は自分が意図して目を向けた視野の範囲であり、「こんな風景」であろうという何とはなしの予期がある。ところがバックミラーに映る景色はそうではない。カーブを曲がるたびに意図せざる景色が現れる。  そういう機微を鋭く捉えた句で、これは凄い感覚だと感じ入った。(水)

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