生温さ消え蛇口より秋の水   直井 正

生温さ消え蛇口より秋の水   直井  正 『季のことば』  「秋の水」という季語には清冽な感じがある。研ぎ澄まされた名刀を喩えるのに「三尺の秋水」という言葉もある。  だから、この季語を用いて作句する人も、その句を読む人も、「秋の水」と言えば、谷川だとか山の湖だとか、湧水、懸樋の水、汲み上げたばかりの井戸水などを思い浮かべる。ところがこの句の「秋の水」は、なんと水道水である。これにまず驚いた。  しかし、水道水だって当然季節による変化は生じる。真冬の朝、蛇口をひねった途端の水の冷たいこと。真夏になると今度は気持悪い日向水のようなのが出て来る。こういうことは日常誰しも経験しているのだが、句材として取り上げることをしない、というより、そこまで気が回らない。それを作者はしっかり捕まえたのである。  蛇口から流れ出て来た水の感じが明らかに違っている。生ぬるさが失せて、いかにも水、という感じなのだ。やはり秋だなあと思ったというのである。市井の日常のちょっとしたことに秋の気配を感じ取る、この感性が素晴らしい。 (水)

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