秋の雲盆地をよぎる刹那かな          高瀬 大虫

秋の雲盆地をよぎる刹那かな          高瀬 大虫 『この一句』  何となく心に引っかかる句であった。作者は盆地を見渡せるような場所に居るのだろう。秋の雲が流れ、その影が盆地をゆく。見上げれば雲は悠々としているが、影の動きは意外に早く、地上が翳ったかと思ったら、すぐに秋の日が当たっている。しかし盆地を「刹那」に過ぎていくとは思えない。  雲は風とともにに流れていく。上空なら風は秒速百mにもなるから、雲の速さも同じくらいだろう。しかし盆地であれば相当な幅があるはずで、そこを過ぎるにはそれなりの時間がかかるはずだ……。私は俳句を理屈で考えてしまう傾向がある。こういうこと実際にあり得ない、おかしいよ、と断じてしまうのだ。  ふと気付いた。これは雲が盆地をよぎっていくうちの「一刹那」なのかも知れない。徒然草に「刹那を漫然と過ごしていると、すぐに一生を終えてしまう」というような一節があった。僧侶の資格を持つ作者は、雲の、あるいは雲の影の動きを見つめながら、そんなことを考えているのだろうか。(恂)

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