水汲むや姫川源流苔の花   高橋 楓子

水汲むや姫川源流苔の花   高橋 楓子 『この一句』  作者はこの夏、白馬岳周辺に出かけ佳句を得ているが、これもその一つ。姫川は長野県白馬村親海湿原(およみしつげん)に端を発し、国道148号線に沿って約60キロ流れ、新潟県糸魚川市で日本海に注ぐ。国土交通省の一級河川水質調査で水質ランキング一位という、すこぶる清澄なる流れである。  姫川の姫は古事記に出て来る沼名河比売(ヌナカワヒメ)という越の国(新潟県)の豪族のお姫様で絶世の美女。出雲の国から大国主命が求婚に訪れたという伝説がある。この時代、大和をはじめ日本各地の貴人の胸元を飾っていた曲玉の原料である翡翠は、全てこの川と河口の糸魚川海岸で産出していたものだった。その源流ともなれば麗しき姫が住む土地と思われたのも当然であろう。  颯爽たるキャリアウーマンの作者も真夏のトレッキングでいささか疲れた。ようやくたどりついた姫川源流の手の切れるような水を掬い、ほてった顔を冷やす。水中から伸びたバイカモが水面に白い五弁花を浮かせ、泉の縁にはびっしりとビロード状の苔が小さな小さな花をつけている。鏡のような湧水に自らの顔を映す。「あら、ヌナカワヒメが現れたのかしら」。(水)

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