たちまちに諏訪を消したる夕立かな     吉野 光久

たちまちに諏訪を消したる夕立かな     吉野 光久 『この一句』  中央自動車道の往還で諏訪湖の脇を何度か通ったことがある。諏訪湖に添って走るのは数分間、距離にして四、五キロだろう。東京方面からだと右手に諏訪湖が広がり、その周囲に諏訪の町が広がっている。あの景色が夕立の襲来によってたちまち消えるという、何ともスケールの大きな句柄である。  自動車道から諏訪湖や諏訪の町の全てが望めるわけではない。四分の一ほどが見えたかと思うと、消え去り、また現われては消える。とはいえ、その時の視界が全て夕立の中に没したとしたら、「諏訪を消したる」と言い切って一向に構わない。句会で最初にこの句を見たとき、そんなことを考えていた。  合評会で、登山家の冷峰氏からこんな発言があった。「高ボッチ山、あそこなら諏訪と諏訪湖を全て見渡すことができる」。家に帰って早速、地図を広げた。諏訪湖の北北西約八キロ、標高は一六六五メートル。私はその頂上に立った。諏訪湖と諏訪の町を夕立雲が覆っている。その下では沛然たる雨が……。(恂)

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