麦秋や就活女子の黒スーツ      金田 青水

麦秋や就活女子の黒スーツ      金田 青水 『この一句』  一か月ほど前、ちょうどこの句のような風景に出会った。梅雨半ばの蒸し暑い曇り日であった。東京近郊のJRの駅を出て私鉄の駅まで、旧街道を十分ほど歩かなければならなかった。前に黒スーツの若い女性が早足に歩いていた。衣服と雰囲気から就職活動中のように思えた。  近辺に中小の機械メーカーがいくつかあった。中には、下請けから独自の製品を作るようになり、新聞の産業面に小さく載る程度の企業もあった。私鉄の駅近くの交番前で、再びその女性を見た。訪ねて行く会社の場所を聞いているのだろうか。笑顔を見せながら、ハンカチで汗を拭っていた。  麦秋はもともと陰暦四月の別称で、麦の取り入れの時期を表すという。つまり麦畑はなくても成立する季語であり、駅から駅へ私が歩いたあたりも都会と言っていい。しかし戦後間もなくは麦畑が広がる地域だった。あの景色の中に黒スーツの就活女性が歩いていたら…。案外、似合うかな、と思った。(恂)

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