自治会館脇の小流れ蛍舞ふ   堤 てる夫

自治会館脇の小流れ蛍舞ふ   堤 てる夫 『この一句』  「おや、こんなところに蛍が」。自宅近くの雑草生い茂る細流に蛍を見つけて驚く作者の表情が浮かぶ。  「自治会館脇の小流れ」、まさにそうなのだ。今年1月に引っ越した長野県塩田平の田畑に囲まれた住まい。ローカル線の無人駅から自宅までわずか百メートルほどだが、その途中に素朴な建物の自治会館があり、前を農業用水路の一部なのか小さな川が流れている。厳しい冬が過ぎ春になると、岸辺にタンポポ、げんげ、イヌノフグリなどが可憐な花をつけ、やがて水が隠れるほど草が伸び始めた。そこに6月、蛍が出現したのだ。  大都会に何十年も住み暮らし、蛍と言えばホテルが客寄せに放つ「納涼蛍狩り」で見たことがあるだけだ。自然に繁殖し、舞飛ぶ蛍の美しいこと。真の闇のなかを青白くふわふわと、時にはすーいすいと動くはかなげな発光体を追いながら、「便利」を捨てて、田舎に終の棲家を求めたことは間違っていなかったと、しみじみ噛みしめた。(水)

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