吹く風とこの道行かん麦の秋   加藤 明男

吹く風とこの道行かん麦の秋   加藤 明男 『季のことば』  麦秋は麦の収穫時期を迎える初夏の季語である。陰暦四月の異称でもあった。今のカレンダーでは五月下旬になる。  月の満ち欠けを基準にした太陰暦は一年の長さが太陽暦の365日に比べ10日も短いから、年々季節がずれてしまう。これを補うために古代中国で発明され日本に伝えられたのが二十四節気・七十二候という季節を示す言葉。二十四節気は太陽年の365日を二十四等分して、それぞれの時期の特徴的な言葉で季節を表したもので、例えば「大寒」「立春」「大暑」「立秋」「冬至」などというものである。七十二候はそれをさらに三分割して季節変化をきめ細かく表したもので、昔の人たちはこれを頼りに農作業や暮らしの段取りをつけていた。二十四節気の立春から数えて七番目は「小満」、その第三候が「麦秋至」。  この麦秋至の時期は麦の刈取りと同時に稲の苗を育てるために苗代に籾を蒔く大切な時期だ。空は真っ青に晴れ上がり、吹く風は爽やか。しかしもうすぐ入梅。都会っ子たちは貴重な晴天の日々を散歩やジョギングに精を出す。(水)

続きを読む

国東は鬼さへやさし麦の秋   野田 冷峰

国東は鬼さへやさし麦の秋   野田 冷峰 『合評会から』(日経俳句会合同句会) 綾子 国東半島にはまだ麦畑がいっぱいあり、鬼が縛られるお祭りがある。「鬼さへやさし」がいい。 二堂 国東には鬼会(おにえ)という祭があって、鬼が仏の化身みたいな文化があるらしい。鬼の優しさが強調されていていい句だ。 頼子 国東半島には磨崖仏とか仏教遺跡がある。風土も厳しくなくていい所。高校時代の担任から郷里の怖くない鬼の話を聞いていた。 正裕 「鬼さへやさし」が麦の秋と合っていて、いかにも俳句らしいなと思います。 光久 国東半島の見渡す限りの麦秋は印象的だ。素朴な豊かさと鬼との取り合わせが上手い。           *     *     *  作者は大分県国東半島が大好きで、しばしば出かけてはさ迷い歩くのだという。「くにさきはおにさへやさし」という柔らかな調べが素晴らしい。麦秋ののんびりした土地の風情に身も心もゆだねている感じが伝わって来る。(水)

続きを読む