いざ行かむ傘寿の先へ更衣          田村 豊生

いざ行かむ傘寿の先へ更衣          田村 豊生 『この一句』  「人生を振り返る句が多いなぁ」という声があった。兼題「更衣」の句を眺め渡すと、確かにその通りであった。「年重ね」「来し方を」「昭和は遠し」「母の姿も遠ざかり」――。人は更衣をするとき、わが身を振り返り、「もうこんな年になったか」「よくここまで来たものだ」という感慨を抱くのだろう。  そんな中にあって、この句は未来を見つめている。それも七十九歳のいま、数か月後にやって来る誕生日、すなわち傘寿の先へ歩を進めよう、というのだ。作者は「カラ元気ですよ」と謙遜されるが、「いざ行かむ」と詠み切った気合いが何とも快い。初夏の俳句に相応しい直球勝負である。  作者は俳句を始めて僅か半年ほど。句会に出たのは四、五回だろう。それも友人に引っ張り込まれての俳句体験であったが、高齢者に勇気を与える句を作ることが出来た。「いつ始めても早過ぎることはない。いつ始めても遅過ぎることはない」。米国人の作ったゴルフの格言は、俳句にこそ相応しい。(恂)

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