黴匂ふ志功装丁初版本           玉田春陽子

黴匂ふ志功装丁初版本           玉田春陽子 『この一句』  若そうに見えて、話すことはけっこう古い。そういう作者の句だから、「ははぁ、アレだな」とすぐに思いついた。棟方志功の装丁本とくれば、昭和三十年代に出版された谷崎潤一郎著の一連の小説や随筆集に違いない。中でも世に大きな話題を巻き起こしたのが、シリーズの先頭を切った「鍵」である。  句会では、やはり「鍵」に話が及び、初版本はいま何万円もの高値になっていると知った。家に帰って書棚から取り出し、「もしかしたら」と奥付を確かめたら、初版数カ月後の再版で何と十二版。自分の欲張りを笑いつつ、売れ行きの凄さを再認識した次第である。ちなみに定価は三百五十円であった。  ぱらぱらとページを繰ると、カタカナ書きの「日記」の中から蠱惑的な老人セックスの世界が甦って来た。あの頃、二十歳前後の若者がもう後期高齢者になっている。谷崎文学はいま、どう捉えられているのだろうか。「黴(カビ)臭いかな」、と本に顔を寄せてみたが、それほどでもなかった。(恂)

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