一人にも二人連れにも春の風          田中 白山

一人にも二人連れにも春の風          田中 白山 『この一句』  「二人連れにも一人にも」と順序を逆にしてみたらどうなるだろうか。春風は二人連れにそよそよと吹いている。あれ、あそこにも一人いるぞ、寂しそうだから、あの人にも吹いてあげよう、と、春風は風向きを少し変える。二人連れは楽しそうにしていて、一人はそのおこぼれを頂いたことになる。  しかしこの句の場合、春風は一人に先に吹く。今朝も元気に散歩する人は春風を受けて一層心地よい。向こうを歩く若い二人連れにも優しい気持ちを向けるだろう。仲がよさそうだ、いい家庭を作ってもらいたいな。あ、女性の髪が少し靡いた。心地よい風があの二人にも吹いているのだな、と思う。  「その解釈、ちょっと、考え過ぎじゃないですか」と若い人は言う。「いやいや、君の鑑賞力はまだまだ若い。この句に込められた老練の技巧を感じてもらいたいなぁ」と高齢者は譲らない。「そうですか」と若い人は口をつぐんだが、(春風は誰にも同じように吹くはずなのに)と思っている。(恂)

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