何したと記憶も残らぬ春惜しみ   来間  紘

何したと記憶も残らぬ春惜しみ   来間 紘 『季のことば』  「共感、ということで採りました。春はあっという間で、ほんとに何をしていたのかなあと思います」(明美)という合評会での句評に出席者全員がうなずいた。「惜春」という季語の本意は素晴らしい季節が去ろうとするのを惜しむということなのだが、この句は浪費した日々を惜しむということに力点が置かれた、ちょっと変わった用い方である。  春があっと言う間に過ぎ去るのは誰もが感ずるところで、「二月逃げ一年も逃げ始めたり 恂之介」(「みんなの俳句」第四集・12.2.28)という名句もある。これは取り留めのない二月を詠んだものだが、上掲の句は春三ヶ月の締め括りの感懐。いつの間にかもうゴールデンウイークのとば口で、「そういえばこの春は何と言うこともなく過ぎてしまったなあ」と憮然としている。  二月、三月、四月は受験、卒業、入学、就職、新年度といろいろな行事があり、何かとせわしない。しかしこれらは他律的な、いわば“決まり物”の行事だから、忙しい割には印象が薄く、記憶に残らない。かくて春はさらさら流れてしまうようだ。(水)

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