白魚を獲る満天の星の下 宇佐美 論
白魚を獲る満天の星の下 宇佐美 論
『この一句』
作者は俳句を始めて半年。この句は多少の手直しを受けているのだが、ベテランから「白魚漁を大きく捉えている」というお褒めの言葉を頂いた。作者は白魚漁を見たことがないに違いない。実は私も同じことだが、歳時記や解説書などを読んだ上で、さまざまな風景を思い描くことになる。
「満天の星の下」と詠まれて、なるほどこういう状況もあるはずだ、と認識を新たにした。白魚漁と言えば、みぞれ交じりの雨の中、とか、歌舞伎のセリフでおなじみの「月も朧に白魚の篝(かがり)も霞む春の空」といったような、ある程度、固定化されたイメージがあるように思われる。
しかし白魚漁は冬から五月くらいまでは続くという。ならば、あらゆる天候があって然るべきだが、俳句をやっていると、満天の星は秋の夜空だ、というような“常識”が生まれてくる。俳句つくりの停滞は、そんな形で訪れるのではないだろうか。この句を、わが頂門の一針としよう。(恂)