夕東風や手酌で過ごす釣りの宿        印南 進

夕東風や手酌で過ごす釣りの宿        印南 進 『この一句』  この時期の川釣りはどうなのだろう。詳しいことは知らないが、寒そうで、魚の食いも悪そうで、宿に泊まるような釣りなら、海釣りではないだろうか。海なら、イサキ、メバル、イシモチ、ハナダイ……。そう考えるだけで、早くもうきうきしてきて、船上の釣りへの思いが湧いてくる。  句の作者は釣宿の部屋に入り、一人手酌でやっているのだが、決して寂しいわけではない。明日、釣るべき魚種を思い浮かべ、仕掛けは、餌は、コマセは、と思いを巡らせているのだ。それともう一つ、風という重大な関心事がある。窓の外をうかがうと、夕東風が吹き始めたようである。  近年、東風は荒っぽくなった。海に来てそよ風に出会ったことは少なく、この二月の釣りは、ごうごうと鳴る風に早々と退散してきた。「春の海ひねもすのたりのたりかな」(蕪村)。最近、しきりにこの句が頭に浮かんでくる。穏やかな海でゆっくりと釣りを楽しみたい、と思っているからだろう。(恂)

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