すみません降りますの声水温む        山田 明美

すみません降りますの声水温む        山田 明美 『この一句』  ある私鉄の駅から別の私鉄の駅までバスに乗った。途中のバス停で「降ります」の声があり、四人の親子が降りて行った。石神井公園という停留所だった。道路の脇には池が広がっている。見ると、スワンボートが何艘も岸につながれたままだったが、池の面は明るい日差しに満ちていた。  その二日後に句会があり、この句を最初に選んだ。あのバスに乗っていなかったら選んだかどうか、と考えた。体験と選句はかなり密接な関係を持っていると思う。知らなければ理解できない、という句もよくある。この句の場合、数人の人が、それぞれの記憶に当てはめて選んでいたようである。  いつの頃からかバスは、座席近くのボタンを押し、下車を伝えるようになっている。あの時は立っている人が何人かいた。四人の家族は、お父さんが妹を抱き、母さんが兄の手を引き、声をかけながら降りていった。これから同じ路線のバスに乗るたびに、あの家族と、この句を思い出すに違いない。(恂)

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