枝つたふ滴に春の光かな        高瀬 大虫

枝つたふ滴に春の光かな        高瀬 大虫 『この一句』  思えば、水とは不思議な物体である。川となり、海となり、氷や水蒸気となり、雲となり、雨となり、われわれの命の根源となり、血となり、汗となり――。あまりにも身近な存在だから、水の変化はすべて当然のことと考えてしまう。しかしどうして、水が滴(しずく)になるのだろうか。  この句の滴は雨の一粒か、雪の溶けた水滴なのだろうか。滴は梅の木の、蕾はたくさんあっても、まだ葉の出ていない枝に留まっていたように思われる。それが万有引力により、小枝を伝い、下に向かって動き出した。春の陽が射しているのだろう。宝石のような水玉がキラリ、キラリと輝いている。  少年の頃、こんな情景をよく見ていたような気がする。ところがいつの間にか、不思議さを覚えなくなり、この句を読んでみて、自然を見つめようとする心の萎えを思い知った。滴の一粒が実は、われわれにとって重大な存在なのだ。そこには何しろ、俳句の種がたくさん宿っているのだから。(恂)

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