春光へ白き巨船の消え行けり      前島 巌水

春光へ白き巨船の消え行けり      前島 巌水 『季の言葉』  「春光」の第一義は「春の景色」である。しかし「春の光」の意もあり、俳句作品を見ると「光」そのものが多く詠まれている。一般的な春の景色の場合は、春光の傍題である「春の色」「春景色」などがよく用いられるようだ。冬から春へ、季節の移り変わりを示すのは何と言っても、陽射しなのだろう。  江戸時代に「春光」の句はほとんど見かけない。明治以降によく詠まれるようになって行くが、その頃から早くも「光」そのものとして捉える傾向が表れる。草の葉、水の面、彫像、美しい白髪……。そういう所にキラキラと光る、比較的小さなきらめきが、「春光」の定型になっているようだ。  その中で、これはまた何とも広大な春光を詠んだものだ。横浜港の埠頭から見た風景だという。沖には霞が立ち込めているのだ。ぼんやりとした沖全体を春光に見立てている。巨大な白い客船が出港した。船体はぼんやりとかすみ始め、やがて沖の彼方に消えて行く。まさに春の景色であり、春の光と言うべきだろう。(恂)

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