春光や鉋吐き出す丸き屑        徳永 正裕

春光や鉋吐き出す丸き屑        徳永 正裕 『この一句』  かつて大工さんは少年たちのヒーローであった。彼らの技は鋸(のこぎり)、鑿(のみ)などの道具によって発揮されていたが、中でも鉋(かんな)の掛け方が一番の見どころであった。鉋から鉋屑が勢いよく吐き出されてくるのを飽きず眺めていた、という思い出を持つ人も少なくないだろう。  この様に書いてきて気がついた。鉋、鋸、鑿、それに錐(きり)、鉄鎚(かなづち)鉄梃(かなてこ)……。若い人ならずとも、ルビを振らないと読めないような道具となった。建築はプレカット工法ばかりで、大工道具はすでに過去のものに近い。大工さんの腕前を見る機会も当然、失われている。  しかし中高齢者の記憶には、いまも鮮やかに大工さんの技が残っている。だからこそ、この句は句会で高点を獲得した。大工さんが柱に鉋を掛け始めた。鉋屑がシュルシュルと飛び出して行く。「これ、春光に限らないだろう」という声があった。「いや、春光だ、絶対に」。そういう意見が多数派だった。(恂)

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