冬すみれ母が好んだ散歩道     高井百子

冬すみれ母が好んだ散歩道     高井百子 『この一句』  すみれ(菫)の花への人々の思いは、芭蕉が「山路来てなにやらゆかし」と詠んだ頃から、ずいぶん変わってきたのではないか。宝塚を象徴する曲「すみれの花咲く頃」。あの甘いメロディと乙女心がしっかりと結びつき、すみれの新たなイメージが作り出されてきたように思われる。  「すみれの花咲く頃の叔母杖に凭(もた)る」(川崎展宏)という句がある。かつてこの歌を口ずさんでいた女性たちは老いて杖を手にするようになり、この世を去る人も増えてきた。句の作者の母上も先年、長寿を全うされたと聞いている。すみれのイメージにも、変化が生まれていくのかも知れない。  冬すみれは、特別なすみれの種類を言うのではない。寒の頃、日当たりのいい場所に早く咲き出すすみれである。作者が散歩中、ふと目をとめると、道端の日だまりにすみれが紫色の小さな花を咲かせていた。この道は母の好きな散歩道だった、と懐かしく思い出したのだ。母上も宝塚の歌を好んでいたのだろうか。ともかく私はこの句を見ているだけで、あのメロディが聞こえてくるのである。(恂)

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