屠蘇なめてまづは目出度き祖母の笑み      笹本塘外

屠蘇なめてまづは目出度き祖母の笑み      笹本塘外 『この一句』  勝手な想像を許して頂くことにしよう。お祖母さんは相当なご高齢で、寝たきりに近い状態かも知れない。視力や聴力も衰えて、ご家族との意思疎通は確かではない。しかし半世紀以上も一家を支えてきたお祖母さんがいないと今年が始まらない。孫たちが支えて屠蘇の膳に座ってもらう。  屠蘇を飲むしきたりは、家長から、逆に若い順から、という二つの流儀があるそうだが、この家では何はさておきお祖母さんからでなければならない。三段重ねの朱の盃から一番上の小さな一つを持たせ、父が銚子から三度に分けて屠蘇を注ぐ。家族全員が、お祖母さんの様子をじっと見つめている。  かつてはいけるクチだったお祖母さんも、この数年、お酒を口にしていない。アルコールと言えば、元旦のお屠蘇だけだろう。昨年から盃を持つ手元が次第におぼつかなくなってきた。今年は大丈夫だろうか。孫の手助けでようやく盃の端に唇を当て、ほのぼのと立ちのぼる香に、にっこりと笑った。「お屠蘇の香り、覚えているんだ」とみんなも笑う。こうして一家の正月が始まるのであった。(恂)

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