冴ゆる夜のかくも静かに妻とゐて        吉野 光久

冴ゆる夜のかくも静かに妻とゐて        吉野 光久 『この一句』  「かくも静かに妻とゐて」。この静かさを別の語で表現できそうもない。部屋にいるのは夫婦二人だけ。夜はしんしんと冴え渡る。年末から年始へ、このところの寒さは特に夜に厳しく、じわじわと家の中まで浸透してくるようだ。二人が黙しているうちに、時は少しずつ過ぎて行くのである。  句を読み返していたら、武士の夫婦が浮かんできた。中級以下の立場ながら、夫は謹厳な生活を守り、日夜の研鑽を怠らないというような…。夫は正座し、書見台の和綴じ本を読んでいる。妻は少し離れたところでお茶でも淹れているのだろうか。現代にこのような夫婦の風景があり得るのか、とも思った。  作者が明らかになって、句会は粛然とした。作者は入院中であった。夫婦がおられたのは病室に違いない。夫は本でも読んでいるのか、俳句を考えているのか。奥さんは静かに付き添っているのだろう。句会から数日後、七草の夜の街に出ると風の当りはいくらか柔らかく、「冴え」は緩んで来たようであった。大寒はこれからだが、日は長くなり始めた。「日脚伸ぶ」を実感するのもそう遠くない。(恂)

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