傍らに妻の寝息や去年今年   加沼 鬼一

傍らに妻の寝息や去年今年   加沼 鬼一 『この一句』  年越蕎麦を老妻と二人ですすって、除夜の鐘を聞いて就寝。あれこれ思い巡らしていると、すっかり目が冴えてしまった。子どもたちは巣立ち、今や狭い家を広く感じる老老世帯である。夫婦ともども寄る年波であちこちがたが来てはいるものの、大病を患っているわけではなく、立居振舞いに不自由はない。細かなことで不満はあるものの日常の暮らしもまずまずだ。  もうそろそろ喜寿という年頃になって、平穏無事、大過なく過ごせているのだから、これで文句を言ったら罰が当たるというものだ。しーんと静まった新年の暁闇の中に、妻の寝息がばかに大きく響く。あなたの鼾がうるさくてよく寝られないなんて言ってるくせに、自分だって結構派手な寝息を立てているではないか。  新しい年もたぶん我が家は去年と同じような暮らしが続くことだろう。世の中は政権が変わった途端にあれこれざわめいているけれど、市民の安穏な暮らしだけは保ってほしいものだ。(水)

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