着ぶくれて熊めけるひと道に寝る   高橋 淳

着ぶくれて熊めけるひと道に寝る   高橋 淳 『季のことば』  いまどき「着ぶくれ」は流行らない。冬服でも近頃のは布地が薄くて秋や春物と変わらない。ビルの中は「暖房温度を低めに」などと言いながら、厚着していると汗をかくほどだ。電車内や駅構内、地下道なども温かい。  けれども俳句では「着ぶくれ」は冬の大きな季語になっており、結構人気がある。「着ぶくれのおろかなる影曳くを恥づ 万太郎」というように、達磨さんのように重ね着した人はさすがに見なくなった。と思っていたら、やはりいた。熊のようにふくらんだ身体を道路の端に横たえている自由人である。  この句は「熊」という兼題句会への投句。当然のことながら「着ぶくれも季語じゃないですか」という声が上がった。しかし、よく読み直すと、「熊めく」では季語になり得ないから、これはいわゆる「季重ね」ではなくて、「着ぶくれ」の句ということになろう。たまたま「熊」という題に触発されて出来たんだろうと言ったら、「何かごまかされているような感じだなあ」と首を傾げる人がいた。天衣無縫融通無碍なる作句術のこの作者もまた自由人である。(水)

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