茜雲浅間の嶺へ葱の列            前島 厳水

茜雲浅間の嶺へ葱の列            前島 厳水 『この一句』  茜(あかね)雲が西空を覆っている。その下に浅間山。手前の葱の列が浅間山まで続いている(ように見える)という風景。句の順序からいえば、上から下へと視線を戻してくることになるのだが、視線は明るさを求め、葱畑から浅間へ、さらに上空の夕焼け雲に戻って行くような感じもある。  決して明るい情景ではない、と私は思う。夕暮れが近づき、葱の緑色は土の色に溶け込もうとしている。浅間は茜雲を背に受けて、蒼黒く広がっているのだろう。絵画として思い描けば、上三分の一は美しい茜空である。しかしキャンバスの下三分の二は茶や緑を基調にした空間が広がっている。俳句には日本画を思わす情景がよく詠まれるが、これは重厚な油絵の句と言うべきだろう。  秋晴れや冬晴れの日なら、様子は一変する。青空の中に浅間が浮かび、手前の葱畑は緑が鮮やかである。想像によって、浅間が見える辺りを描けば、そのようなよくある風景になってしまうはずだ。しかしこの句は茜雲によって類型を脱した。実際に見た風景であるからに違いない。(恂)

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