玄関の主なき杖や秋の風   田中 白山

玄関の主なき杖や秋の風   田中 白山 『この一句』  何とも身につまされる。遅かれ早かれ我が家もこうなって、玄関の傘立てに私の杖がぽつんと一本。山の神が「お酒をさんざん飲んで、好き放題やった人ですから」なんて来客に言っている景色が浮かんで来る。  番町喜楽会という句会に喜寿にして入会した作者が、いきなり最高点を獲得した句である。句会のメンバーは私も含めて杖に頼る人間は一人もいないのだが、こういう句を見るとはっと悟る年頃にはなっている。「なんの難しいところもない、見たままをすっと詠んだだけだが、見る者の心にしみじみと伝わって来るものがある」というのが大方の賛辞であった。  「だけど、なぜ死んだ亭主の杖をいつまでも玄関に残しておくのか」という疑問が呈された。作者曰く、「表札をそのままにしておいたり、玄関にご主人の靴を置いておく家があるようですね、防犯の意味で。これは亡くなった友人の家のことなんですが、奥さんとしては処分してしまう気持にはなかなかなれないし、そこにあるとなんとなく心丈夫という気持もあるようでした」。(水)

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