大男屈みてをりぬ貝割菜           広上 正市

大男屈みてをりぬ貝割菜           広上 正市 『季のことば』  秋まき大根の場合は一か所に五六粒の種を直まきし、子葉が二枚出たあたりが「貝割菜」(秋の季語)。この時期に元気な芽を三本残して、間引かれたものが「間引菜」(これも秋の季語)である。二つの季語の差は微妙であるが、残った三本を一本にする頃は子葉が増えるので「貝割り」ではなくなる。  一般には「カイワレ」と呼ばれるが、俳句で「菜」を省略した作例はあまりないようだ。近年は「スプラウト(新芽)」の通りがいいらしく、野菜売り場ではブロッコリー、レッドキャベツなどのスプラウトも並んでいる。しかしこれらは季節に関係なさそうだから、季語になれないだろう。  上掲の句は家庭菜園か小さな畑に芽を出した貝割菜を、大男が屈んで見ているという場面だろう。彼はその芽を慈しんでいるのか、はたまた間引こうとしているのか。アマチュアの農業人だと、種から育てた小さな芽を引き抜くのに心が痛むそうである。その一方で、汁の実にし、おひたしにする時のおいしさも思い浮かべている。悩むのが大男であるだけに余計、ペーソスを増そうというものだ。(恂)

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