蜩の尾瀬を渡りて風となり       高瀬 大虫

蜩の尾瀬を渡りて風となり       高瀬 大虫 『この一句』  尾瀬と言われて思い浮かぶのは水芭蕉、木道、湿原、尾瀬沼、燧ケ岳、至仏山――。水芭蕉がとうに咲き終わり、葉がびっくりするほど巨大になっても、その魅力が失われることはない。爽やかな風、澄んだ沼の水、全天を覆うほどの鰯雲。ハイカーの少なくなる秋が最も尾瀬らしい、と言う人もいる。  今は蜩(ひぐらし)も鳴いているのだろう。この句、尾瀬を渡るというのは、蜩が飛んでいることではない。鳴き声が渡って行くのである。木道を歩いている時に周囲の林から、蜩の声が聞こえてきた。声はもちろん途中で消えてしまう。それを「風となり」と表現したところが上手い。  尾瀬は尾瀬沼と湿原を中心にした広大な盆地である。いくつかあるハイキングコースの距離はそれぞれ二〇キロくらいあるだろう。複線の木道が延々と続いており、登山靴で踏んでいく感触がまことに心地いい。しかし、と思う。木道の整備などは、尾瀬の何割かを管理している東京電力を中心に行われてきた。この先、どうなっていくの「カナ、カナ、カナ」と蜩が鳴いている。(恂)

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