さんま焼き尾頭に分け夫婦たり   今泉恂之介

さんま焼き尾頭に分け夫婦たり   今泉恂之介 『この一句』  熟年夫婦二人だけの夕食風景である。頭の方半分は自分、尾の方はカミさん。旨味の濃い上半分を取るからといって、何も亭主関白を気取っているわけではない。我が糟糠の妻は魚を食べるのがあまり上手ではないので、どうしても食べやすいしっぽの方を好む。長年の習慣で、自然にそういう配分になった。  昔はもちろんそれぞれの皿に一匹づつ乗っていた。それがいつの頃からか夫婦で半分ずつ分けるようになった。昔の台所では秋刀魚をもうもうと焼いた。近頃の機密性の高いキッチンではそうはいかない。備え付けの上品で小ぶりなグリルで焼く。長い秋刀魚も無理すれば入るが、やはり半分に切った方が焼きやすい。といった調理上の都合もあるのだが、なんと言っても、二人とも脂のきつい秋刀魚は半分で沢山という気分になってきたことが大きい。  下半身のないサンマをつつきながら亭主はあれこれ考える。これが年取ったということかなあ、でもまあお互いに大過なくやって来られて、こうしてのんびりしていられるのが何よりと言うべきなんだろうなあ・・・。(水)

続きを読む