二人居て昔語りの朧かな   大平 睦子

二人居て昔語りの朧かな   大平 睦子 『季のことば』  朧とは春の夜の様子を言う季語だが、五月とは言っても初旬のうちはぼんやりともやがかかったような朧夜が続く。まだ菜の花がさかんに咲いているし、そこに煙るような雨が降り注ぎ、宵闇ともなれば街灯は暈がかかったようにうるむ。  こんな晩はとかく思い出話に耽りがちである。長年連れ添った夫婦にはこういう場面はよく訪れるだろう。子どもはみな巣立って、それぞれの家庭を作っている。老夫婦は孫のことなど喋っていたのが、いつの間にかその親たちである息子や娘がまだ幼かった頃を思い出して、あれこれ話し出す。  こうした老夫婦の昔語りもなかなかいい雰囲気だが、それほど珍しい場面とは言えず、句としてはやや新鮮味に欠ける。やはり、久しぶりに会った昔なじみと二人だけでくつろいでいる場面の方がいい。同性の旧友同士でもいいし、あるいは昔の恋人同士でもいい。朧月を見上げながら、盃をやりとりしている。二人ともそう饒舌というわけではないが、どちらかがひと言いっただけで、朧の中にぱっとその場面が甦って来るのだ。今夜は満月である。(水)

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