十念を唱え戻るや花馬酔木     鈴木 好夫

十念を唱え戻るや花馬酔木     鈴木 好夫 『この一句』  十念とは何か。「広辞苑」で調べたところ念仏、念法、念僧、念戒、年施、念天、念休息、念安般、念身、念死のことだという。ではそれぞれの意味は? さすがの広辞苑も個々に説明しているのは念仏など三つだけ。しかし、その中の念死の説明にぐっときた。「人の死は避けられないものであることを念じ、忘れないこと」。分かっていることではあるが、改めてそう言われてみると……  この句は、当欄の前掲載句と同じ、師の墓参後の吟行で詠まれた。墓所からだらだら坂を二十分ほど下って行った「森林科学園」は、まさに花の山であった。浮き浮きした気分にならざるを得ず、満開の花や花吹雪の句を詠むことになる。それが浮世というものだろう。  しかし作者は地味な馬酔木(あしび、あせび)に目を向けた。あそこには確かに馬酔木も咲いていた。あの壺型の小さな白い花は、桜とは別の美しさがあり、墓参後の心のあり様を静かに表わしている。念仏、念天、念身、それに念死。次の墓参にはこの四つくらいを念ずることにしたい。(恂)

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