一片のまた加はりし花筏      佐々木 碩

一片のまた加はりし花筏      佐々木 碩 『この一句』  「花筏(はないかだ)」は、桜の花びらが水に落ちて一固まりになり、筏のようになって流れていく様を言う。地面などに落ちた花びらの「花屑」とは対照的な、まことに風雅な命名であり、桜に係る数多の季語の中で近年、人気の高まったものの一つと言えよう。かつてこの季語を採用しない歳時記もあったが、このところ気象予報士がよく説明することもあって、一般にも知られるようになった。  水面の花筏に、また一片(ひとひら)が加わって行くという情景。これは写生の句か、頭の中で描いた句なのか。初めはそんなことも考えたが、どちらでもいい、と思い直した。作者の記憶の中に無数のスケッチがあり、その中からこの一場面を取り出して一句としたことに間違いないのだから。  写生と現実は必ずしも一致しないと思う。俳句の場合、読み手の頭にその情景がありありと浮かべば、写生と呼んでいいのではないか。作者は「たんぽぽの絮(わた)一呼吸しては発つ」という句も、同じ句会に投句している。両句ともに、素晴らしい「写生の句」と言うほかはない。(恂)

続きを読む