うららかや河馬の歯みがく動物園    大倉悌志郎

うららかや河馬の歯みがく動物園    大倉悌志郎 『この一句』  河馬が大口を開けている。飼育員がデッキブラシのような大きなブラシを持ってきて、ごしごしと歯を磨く。茶色に染まっていた牙がたちまち、真白になっていく、というような風景が想像される。これはなかなかの見ものだろう。動物園のショーとしても十分に成立しそうである。  この句、句会で最高点を得たが、問題も提起された。「うららか過ぎる」というものである。ある季語に、いかにもそれらしい情景を配するような句は、確かに最近流行らない。しかし「理屈ではない。うららかかそうで、とてもいい句だ」「私は、こういう動物の句が好きなんです」という意見もあった。  作者は動物園に電話を掛けて、いろいろ確かめたそうである。「河馬は獰猛な面もありましてね、気をつけないとパクリと腕を噛まれて、たいへんなことになります」「ははあ、飼育員も命がけですな」。そんなやりとりがあったようだ。俳句作りに取材は大切だが、直接、動物園に訊ねる精神に感服するほかはない。河馬の歯磨のことを聞いている作者の様子を想像したら、自然に笑いがこみ上げてきた。(恂)

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