春眠の起きなくてよい寂しさよ   杉山 智宥

春眠の起きなくてよい寂しさよ   杉山 智宥 『季のことば』  「春眠」という季語は、唐時代の詩人孟浩然の「春眠暁を覚えず、処々啼鳥を聴く」という有名な詩から生まれた。とにかく朝寝坊というのは気持の良いもので、それも陽気の兆す春の朝寝が格別だというので、「朝寝」というのまで春の季語になった。朝寝の楽しさは何もしないことに身を置く、怠けることを許す心地良さにあるようだ。  ところがこれは「もう何もしなくてもいい、早起きなんかしなくてもいい身分になってしまった」状態での春眠を詠んだめずらしい句である。定年後の「御用済み」といったちょっと自嘲めいた気分。しかしこの老人、「寂しさよ」などと言っているくせに、少々の自堕落に身をゆだねるのも悪くはあるまいと開き直った、したたかさも持ち合わせているようだ。年を取ると目覚めが早くなり、あまり長くは寝ていられないのが普通だが、朝寝坊が出来るのは若さを保っている証拠とも言えそうだ。こういう元気な老人が近頃増えている。(水)

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