老梅や朽ちるがままの三重の塔      野田 冷峰

老梅や朽ちるがままの三重の塔      野田 冷峰 『この一句』  横浜・三渓園での作。その広壮な庭園のほぼ中央、園内の最も高い丘の上に聳えているのが旧燈明寺の三重塔である。室町時代に作られ、高さ二十四メートルほど。京都・相良郡にあった廃寺から移築したものだという。同じ日、私は丘の上まで登り、間近からよく見てきたつもりだった。  三渓園は生糸の商いで財を成した原富太郎(号・三渓)が作り上げた庭園で、国の重要文化財の建物が三重塔を含めて十件、十二棟もある。元来は京都、和歌山、岐阜、神奈川などにあったものをここに移築してきたものである。それらの象徴とも言える建物が「朽ちるがまま」とは驚いた。  この句を読んだ後に調べてみたら、三重塔が移築されたのが一九一四年(大正三年)。三渓園に建てられてから百年近くになる。風雨にさらされてきた寂びた風情に「さすがだ」などと感嘆していたのだから、わが目は節穴だった。作者は朽ちかけている塔の各所をしっかりと見定めていたのだ。近くに咲いていた老梅を配して、「保存・修理をしっかりせよ」と訴えているのだろう。(恂)

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