靴底に弾み伝へて春の土   今泉恂之介

靴底に弾み伝へて春の土   今泉恂之介 『季のことば』  日経俳句会と番町喜楽会の有志が3月11日に横浜・三渓園へ吟行した。この日は東日本大震災一周年。鎮魂の雅楽演奏会が行われるのと、厳しい寒さで咲き遅れていた梅がようやく満開ということなので十数人が連れ立って出かけた。この句は吟行会の最高点作品である。  吟行句だから、どうしてもその日のメーンイベントの雅楽演奏あるいは満開の梅、帰り支度を急ぐ鴨に注目が集まる。ところがこれは、なんと当日の園内の小径の踏み心地を詠んだ。確かに前夜までの雨で三渓園の土は湿り、柔らかくなっていた。その弾力が靴底を通して歩くたびに伝わって来るというのだ。  「春の土」は伝統的な「春泥」という季語に比べ地味で、作例もそれほど多くない。しかしあまねく舗装道路が普及し、霜どけのぬかるみを言う春泥が珍しくなってしまった今、春のピクニックや吟行などで「土を踏む喜び」を味わう季語として生き返ってきた。この句はまさにそうした意味で「春の土」の作例として歳時記に載るような句だと思う。(水)

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